『スッタニパータ』最四章、第五章について、不明な部分、あるいは誤解されている部分を明らかにしていこうとするのがこの場所です。そして最初に取り上げるのが 1053(5.学生メッタグーの問い)です。    
                             2020.1.30  岸 本 正 治

 

この「スッタニパータを読む」の方に訳文を掲げました、ここに再び出しておきます。
   a. わたしはあなたに「生き方」を説きます。メッタグーさん、と師は言いました。
   b. 先入知識で「生き方』を見て、あれこれ語らないようにします
  c.d このことを知って、気をつけながら、世間の執着を乗り超えて行くのがよいのです。
       
パーリ文を下にあげました。
  1053    
   a. "Kittayissāmi te dhammaṃ, Mettagū ti Bhagavā  
   b. diṭṭhe dhamme anītihaṃ  
   c. yaṃ viditvā sato caraṃ  
   d. tare loke visattikaṃ."  
 
ポイントとなる語彙とその意味を三つあげます。
diṭṭhe (diṭṭha)…… 「先入知識で見たこと」※別掲に少し詳しく述べます
damme (dhamma) 生き方」。※別掲に少し詳しく述べます
anītihaṃ………

「あれこれ語ることがない」。itihaṃ→iti 'haṃと見るのが妥当だと思われます。これは"iti 'han "として783に出てきます。自己主張することです。

 この三つの語彙ともb行にあります。a,c,d 行については、特に問題ではありませんので、b行だけを取上げます。
         diṭṭhe dhamme anītihaṃ
 日本語をそのまま置いていくと次の括弧の中になります。その下に書いたのが訳になります。
      
      (先入知識で見た  生き方を  あれこれ語ることがない)
       生き方を先入知識で見て、あれこれ語らないようにします。 
 
 ところが、一般的には次のような訳に近いものが多いようです。
      
      (見た  真理を 伝聞によらず)※dhamma=真理 とした場合
       伝聞によらず、真理を見た。

 
 この訳では、あまりに語彙の意味範囲を大きく取り過ぎです。一見魅力ある言葉になっていますが、ブッダが指摘するところの「 diṭṭha(あるいは diṭṭhi)の問題点」、これは第4章、第5章で多く語られています。それを把握した上でこの1053の訳に対応させるのが正しいやりかたです。
 そうでないと、このような大変な誤訳になってしまいます。

 

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