『スッタニパータ』(以降、ここでいう『スッタニパータ』は『スッタニパータ』第四章、第五章のことを指す)には、さまざまな来訪者との対話が記されている。その中で「[これではない]かといって[あれでもない]」というフレーズが多くもちいられている。前ページに紹介したSn.839もこの種類である。読み手にとっては一見、クイズのような、あるいは難解な哲学的内容であるように感じられるかもしれない。また相手の心を動かすための論法にすぎない、という人もいるかも知れない。このようなさまざまな見方があるが、哲学でも論法でもない。ブッダが伝えたい中身そのものである。
ブッダは子供の頃より人生に対する「疑問」を抱き続けてきたと思われるが、その疑問は菩提樹下で「悟り」を開くことで自分の心と物事との関係を明白に知り得た。自らが実証しえたということである。「疑問」と「悟り」とは密接な関係にあるといってよい。この疑問を持つことはブッダの姿勢そのものであり、悟りに直結する。それはまた「何ごとにも依存しないのが良い」という説法の中心となって出て来るのだ。「自己存在への疑問がなくて、どうして解脱ができるのか」ということである。そして常に思想、姿勢、説法、それらがずれることなく、一体になっているのがわかるのだ。(2009.4.27) |